レコーディングスタジオにて

 レコーディングスタジオでの、新人君のはなし。
5分遅刻したばっかりに、「もうこなくていい。」といわれ首になったり、ちょっとしたへまをやって、「田舎帰っちまえ!」とかいわれたり、24時間ぶっ続けで作業させられたり、とかそんな話は、話題にも上らない。そんなんはあたりまえ。
 新人君への嫌がらせって言うのは、こういうのを言う。

ほんとかどうかは知らないが、それは人づてに聞いた話だからね。

 とある有名なレコーディングスタジオ。その新人君は、雑用ばかり言い付かっていた。ある日、チーフからやっとまともな仕事らしきものを言い付かった。
 それは、古い10号リールのマスターテープを、コピーしろというものだった。要するに、もう一つ作れってこと。
 ちなみに、レコーディングスタジオでは、こういうのを、ダビングとは言わない。ダビング というと別の意味になるのだ。
 特に有名な歌手が録音したもので、歴史的にもとても価値があるから、大事に扱うんだぞといわれた。マスターテープとは、いわゆるオリジナルの、カンパケ と呼ばれるもので、それひとつしかない。そこからレコードやらCDなんかをつくるもとのもの。
 新人君、さして難しい作業でもないと、とっとと準備を始めた。新しいまっさらの10号リールを、テープデッキに掛け、渡された方の、10号リールを別のオープンリールデッキに掛けた。そのとき、マスターテープが、やたらきゃしゃである事に気づいた。まあ昔のテープだからと、差して気にしなかった新人君、テンション(テープの引っ張り具合)に気をつけていれば大丈夫と、録音と再生を同時に始めた。
 スタートボタンを押すやいなや、その、マスターテープは、ヘッドに当たっているところから、磁性体らしきものがぼろぼろと取れだし、巻き取っている方のテープは、細く伸び始めた・・・・。
 あわててストップをかけようとしたが、そのまえに、テープ自体がばらばらにぶち千切れてしまった。

 続く