あるコンサートのスピーカーの裏側

 
 私が、PAの仕事をやり始めたときのこと。まだペーペーのつかいっぱしりの存在のときのこと。ある大手PA会社の手伝いに行くことになった。まあようは、ただの荷物運びなだけだけど。
 このとき、とある有名な、ロックグループのコンサートの下準備というか機材運びをやった。場所はどこぞの学校の体育館。そこに椅子を並べただけ。
 照明さんとか、いろんな人が入り混じる中、マイクスタンドやら、いろいろ運んでいった。
 大きなスピーカーボックスを、舞台上手まで運ぶ。一人では運べそうになかったので、もう一人の方と一緒に持って運ぼうとした。
 軽い!?
 思ったより軽かった。幅1Mぐらいあるスピーカーボックスなのだが、なぜかそんなに重くなかった。
 まあ、そんなんで、所定の位置におく。次にまったくおんなじ形のスピーカーボックスを、もう一個運ぶ。
 げ、オモ!?
 まったくおんなじ大きさ、のように見えるそのスピーカーボックスは、前のやつより明らかに重かった。おんなじ人と運んでいるので、間違いない。
 そいつを、さっきのスピーカーボックスの隣に置く。
 ボックスの後ろを見てみた。
 ??????
 
 軽かった方のスピーカーボックスに、アンプと繋げるコネクターがない。
 ????
 前に回って、そいつを覗き込んでみた。

 あたりまえだ。 スピーカーユニットが入ってなかった。
 ????
ふつう、この手のボックスに入っているはずのウーファーがない。いやただの、黒い木の箱だった。
 一緒に運んでいた人に聞いてみた。
 「いや、 そういうもんなんだよ。・・・」
?????
 コンサートは終わった。すごく盛り上がった。ようは、コンサートは成功したわけだ。
 そのころになって気がついた。そうかそういうことだったのかと。
ロックグループなどの場合、スピーカーをたくさん積む。これでもかというくらいに、それこそ山のように積むのが普通だ。それは、演奏者からの希望だったり、観客側からの要求だったり、主催者側からの都合だったりする。いかにも、お金をかけてやってます、という感じがする。ようはPAとしてはそうしないとお金が取れなかったりする。
 でもここは学校の体育館だ。イベントホールじゃない。
 そんなに電源が取れるわけじゃないのだ。照明とかだってたくさん電源を食う。
音響が使える電源の容量はおのずと少ない。
 つまりだ、山のように積んだスピーカーで、音がなっているのは半分もないのだ。だいたいスピーカーユニット自体が入ってない。全部にアンプを繋いだら、電源が足りない。もともとそんなに大きな音を出す必要がない場所でもある。武道館じゃないんだから。
 山のように積んであるスピーカーボックスの半分以上はダミーだったのだ。